AIの活用も検討?滞納対策の現場をレポート

賃貸の繁忙期も終盤ですが、お部屋が埋まったあとは入居者対応が重要になります。その一つが家賃の滞納対策です。2020年4月に120年ぶりの民法改正があり、保証人の責任範囲が厳格にになりましたので、滞納家賃を立て替える保証会社の需要が増しているようです。今月は保証会社や保証業務に関する話題を紹介いたします。

 

AIも活躍、滞納初期対応は効率化が重要

中国の不動産市場で家賃の未納対策について興味深いニュースがありました。不動産デベロッパー・万科グループが2021年に最も活躍した新入社員として選んだのが、なんと実在しないAIだったのです。選ばれた女性社員はコンピューター上に存在する架空の人物で、未収金を社員に知らせたり、テナントに賃料延滞のお知らせをするAI(人工知能システム)で、その回収率は91.44%を記録したそうです。家賃回収は単純作業の要素も多いわりに、人間に大きなストレスとなるので自動化が向いているようです。

日本賃貸住宅管理協会(東京)の公表している「賃貸住宅市場景況感調査(日管協短観)」(2020年10月~2021年3月)によると、月初めに発生する滞納率は5.0%(全国平均)もあるそうです。しかし、そのまま月末まで入金しない借主は2.1%(同)に下がります。滞納者の半分以上は払う意思のあるウッカリミスであることが分かります。そのため、ある保証会社では、家賃未納に自動で電話発信する仕組みを使い、オペレーターは次々と滞納事実を告げて、借主に入金を促すそうです。また、自動携帯電話へのSMS(ショート・メッセージ・サービス)などの活用も増えています。今後は日本でもAIを使った滞納者対応をする保証会社がでてくるかもしれません。

 

殺傷事件も起きた滞納者対応の現場

しかし滞納対策は自動化と効率化では解決できない現実もあります。それは2カ月以上の滞納です。先述の日管協短観によると1.1%(同)がこれに当たるそうです。この滞納者は電話連絡やSMSに反応しないことが多く、直接訪問などの対処が必要になります。昨年12月23日には東京都内で家賃滞納のことで口論になり貸主が殺傷される事件もありました。直接交渉は想定外のトラブルに発展することもあり、保証会社によっては防刃ベストやヘルメットなどを装備して訪問しています。また、警察OBに協力を仰ぐこともあるようです。現場経験の多い保証会社のノウハウに頼る局面が多くなりそうです。

 

行政や居住支援団体も保証会社利用

保証会社が認知されるようになって約20年になります。国交省に登録されている会社だけで82社(2021年11月時点)もあり、全国には250~300社の保証会社があるといわれています。かつては「追い出し屋」とも呼ばれ、強烈な反対活動が起きたこともありましたが、近年では、行政やホームレス支援のNPOなどと協力して居住支援をする例もあります。東海地方で長年ホームレス支援に関わった方は「保証会社を使う前は個人で多くの保証人になっていた。計算したら月の家賃だけで200万円近くもあった。保証会社が使えることで、居住支援がやりやすくなった」と、その意義を語っていました。

また、法的な解釈の整備も進んでいます。2021年3月には、保証会社による滞納者への賃貸借契約解除に関する画期的な判決が大阪高裁でありました。

消費者庁によると、

①2カ月以上の家賃滞納
②滞納者と連絡が取れない
③電気、ガスなどが長期にわたり使われていない
④再度、物件使用する様子がない

という要素があれば、賃貸借契約を解除したものとし、残置物を処分できるというものです。賃貸借契約では、家賃の未納などを理由に契約解除事項を設けることができますが、一方的に入居者の不利益になる場合は消費者契約法に反するとして無効となるとされてきました。しかし、この4要素のように夜逃げなどの事情が明らかな場合は、定められた条項に則り賃貸借契約を解除し残置物を処分できるとの判決がでました。夜逃げ時の残置物処分は大家さんや管理会社の悩みの種でした。今後は上記4項目を参考にした解約条項が採用されるようになるかもしれません。

日本の借地借家法は他国と比べても借主保護が強く、夜逃げや滞納者に対して契約解除や残置物処分がしづらいといわれています。そのため、入居審査が厳しくなるなど市場の硬直化につながっていると指摘されていますが、これから徐々に貸主側の運営のしやすさにも目が向くようになるかもしれません。

このページの先頭へ戻る