弁護士による賃貸法律相談室
原状回復トラブルを避けるための予防策
賃貸経営において、退去時に起きる「原状回復」をめぐるトラブルは、
消費生活センターへの相談の3~4割を占めるほど多く、特に紛争化しやすい事案です。
こうした背景から、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」を策定し、
裁判実務でもこのガイドラインが判断基準として用いられています。
したがって、原状回復トラブルを防ぐためには、ガイドラインの内容を正確に理解するとともに、
貸主としてトラブルの予防策を尽くしておくことが重要です。
令和5年3月の改訂資料では、
①契約内容の確認(特に特約)と物件状況の記録、
②退去時の現地確認による認識共有が、予防のポイントとして示されました。
この記事では、①の「ガイドラインと異なる特約」の注意点について解説します。
ガイドラインと異なる特約を定める場合の注意点
ガイドラインの参考資料で言及されている令和4年の管理会社を対象としたアンケート(以下「アンケート」)によれば、
実務上は、ハウスクリーニング特約やエアコンクリーニング特約などが締結されることが多いようです。
このようなガイドラインの内容と異なる特約を設ける場合は、
①特約の必要性(合理的理由)
②条項の具体性(内容・金額の特定)
③賃借人の認識と同意
(契約時には賃借人に対して特約の内容をしっかりと説明して明確に合意を得ること)
の3要件を満たさなければ無効と判断されるリスクがあります。
実務上良く定められる特約

ハウスクリーニング・エアコンクリーニング特約について
ハウスクリーニングやエアコンクリーニング特約は、実務上多く締結されています。
クリーニング特約については、金額が妥当であり、賃借人に十分説明されている場合には、
有効性が認められやすいです。
国土交通省のガイドラインでは、原状回復工事施工目安単価を契約書に明記し、
賃貸人・賃借人双方があらかじめ合意しておくことが推奨されていますので、
ハウスクリーニングの目安単価は、実際のクリーニング業者の相場や、部屋の広さ・間取り等に応じて設定し、
契約書や別表に具体的な金額(例:2万5000円(消費税別)など)を記載することが望ましいです。
喫煙によるクロス汚れについてクロスの全交換特約について
喫煙によるヤニ汚れや臭いは、一般的に通常損耗とは見なされず、
賃借人の善管注意義務違反や用法違反に該当する可能性が高いです。
そのため、特約を設けずとも、その修繕費用を賃借人に負担させること自体は可能です。
しかし、例えば「喫煙によるヤニでの変色や臭いがひどいときに、室内のクロス全面の交換費用を賃借人負担とする」
といった特約を定める場合は、特に慎重な検討が必要です。
まず、なぜ汚れた部分だけでなく「全面」の交換が必要なのか、
特約を有効とすべき客観的・合理的な理由が求められます。
例えば、実際に「部分的な張替えでは色合いが異なり、賃貸物件室内の美観を著しく損なうため」
といった理由があることが必要です。
次に、全面交換にかかる費用が、消費者契約法に定める「平均的な損害の額」を著しく超える場合、
その特約は無効となる可能性があります。
特に、築年数が相当程度経過している場合や、クロス自体の残存価値が乏しい場合には、
費用の過大性が問題となり得ます(この点は下記3で説明します)。
また、「喫煙した場合は室内のクロスを全面交換し、その費用を負担する」という義務を賃借人が負うことについて、
契約時に極めて具体的に説明し、賃借人がその内容とリスクを明確に認識した上で合意していることが、
有効性のための重要な要素となります。
「重要事項説明書への明記」や「説明を受けた旨の署名・押印」等の証拠化が極めて重要です。
「経年劣化を考慮しない全額負担」特約の有効性
前述のとおり、喫煙によるクロスの汚損(タバコのヤニ汚れなど)は、
通常の使用による損耗には含まれないと解釈されるのが一般的です。
ただし、この場合でも、クロスの価値は経年により減少しているため、
その減少分(経年劣化)を考慮せず喫煙による損傷を理由に交換費用全額を負担させる特約は、
消費者契約法9条、10条に抵触し、無効と判断される可能性が極めて高いと考えられます。
したがって、このような特約を設けても無効となる可能性が高く、
契約終了時に賃借人とトラブルになる可能性がありますので注意が必要です。
弁護士 北村克典 ※この記事は、2025年7月31日時点の法令に基づいて書かれています。
にわとりが先かたまごが先か?
私がこの業界に入ったころは何でもかんでも賃借人に請求が当たり前でした。
理由を聞いてもおかしいと思うことばかり。
結果的の度が過ぎて今のような状況になったのだと思います。
逆に賃借人側も上げ足を取るような考えを持ち、自分の非を認めない方も増えてきたように感じます。
法律にも穴があります。
自分の都合を優先したやり取りは結果的に自分たちが苦しくなる制度に変わって行きます。
お互いのことを考えたやさしさ、譲り合いがなければ結果的にギスギスした関係になり、
気持ちの悪いやり取りだけになってしまいます。
退去時にわかることですが、本当にきれいなお部屋、びっくりするくらい汚いお部屋があります。
汚く使われて家主負担が多くなっては家主業がバカらしくなります。
きれいに住まわれたお部屋なのに、理由をつけて少しでも多く修繕費を請求されては
賃借人さんも何のためにきれいに住んだのか?となりますよね。
私が業界に足を踏み入れた昔は退去自体がトラブルの元でした。
今は度が過ぎた(良いも悪いも)住み方でトラブルが起きている印象があります。
便利になった世の中だからこそ、モノを大事にする気持ちを今より少しだけ持ちませんか?
世の中の大体のことが、今よりもほんの少しだけ優しさ等を持てば
改善するのにといつも私は思っています!