賃借人の孤独死で2か月半放置。賃借人の相続人に損害賠償請求できるのか?

弁護士による賃貸法律相談室

賃借人の孤独死で2か月半放置。賃借人の相続人に損害賠償請求できるのか?

今回は、賃貸借物件内で発生した自殺や孤独死に伴う損害賠償請求の可否について、裁判例をもとに解説します。

まずは孤独死ではなく、賃借物件内で自殺事件が発生した場合、
賃貸人は将来の賃料の低下等に伴う損害を請求できるか、について考えてみましょう。

この場合には、今後の賃貸で「事故物件」と扱われることになり賃料低下を余儀なくされてしまう場合が多いです。

賃貸人としては賃借人の相続人に対して、賃料低下分について損害賠償請求を検討することになります。

どの程度認められるかという問題については、

・当初1年間は賃料全額
・その後の2年間は賃料半額程度

の請求を認めた都心のワンルームマンションの事例(東京地裁平成27年9月28日判決)などがあり、
賃借人の自殺のケースでは損害賠償基準が実務上も確立していると考えられています。

 つぎは、賃借物件内で孤独死が発生して長期間放置された場合はどうなるか、について考えます。

この場合でも自殺と同様に、賃借人の相続人に対して将来の賃料の低下等に伴う損害を請求できるのでしょうか?

の点について判断した裁判例が東京地方裁判所平成29年9月15日判決です。

この裁判の概要は以下のとおりです。

ある日、賃貸人に賃貸マンション(賃料は月額10万円)の
一室から異臭がするという近隣住民からの通報があった。

室内の賃借人が死亡していることが予想されたため、賃借人の家族と警察官に立ち会ってもらい、
ドアを開けて当該室内に立ち入ったところ、賃借人が貸室内の布団の中で死亡した状態(死因不明)で発見された。

死亡推定日時は発見された日の2か月半ほど前であり、布団から液体が床に染み出しているような状態だった。

遺体が2か月半放置されたことにより大掛かりな現状回復が必要となり、その費用として50万円以上が計上された。

賃貸人は賃借人の相続人(賃借人の両親)に対し、
上記の損害のほか、今後は長期間の空室が続く蓋然性が高いとして1年間の賃料の半額を損害として請求した。

裁判所は損害賠償請求を否定して賃貸人の訴えを退けました。

この事案の法律上の問題は、賃借人が室内で死亡し、その発見が遅れてしまったとき、
生前の賃借人に、善良な管理者としての注意義務について違反があったか否か、ということになります。

この点について裁判所は賃借人の義務違反を認めませんでした。
理由は以下のとおりです。

賃借人の死因は不明であり自殺したとは認められない。
また賃借人が生前持病を抱えていたなどの事情はうかがわれないから、
賃借人が、当時、自分が病気で死亡することを認識していたとは考えられず、
また、そのことを予見することができたとも認められない。

以上によれば、賃借人に善管注意義務違反があったとは認められず、
同違反を前提とする損害賠償請求には理由がない。

したがって、賃借人の相続人も損害賠償義務を負わない。

 

この裁判所の考え方によれば賃借人が賃借物件内で自然死した場合、

・賃借人が生死に関わる持病を抱えていたこと
・上記によって突然死もしくは居室内で死に至ることが
十分に予見できたこと

このような事情が存在しない限りは、長期間に放置されていた場合でも、
賃借人の善管注意義務違反は認められない、ということになると考えられます。

したがって、賃借人の自然死(及び発見の遅れ)の場合には、
相続人に対して将来の減収分を請求することは難しいと言わざるを得ません。

この「生死にかかわる持病」について、判決文などで基準が明示されたり特定はされていません。
この点は、社会通念や社会常識から判断されることになります。

令和3年10月8日に、
「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が国土交通省により策定されました。

このガイドラインによると、
老衰や病死などの自然死(孤独死を含む)は原則として告知する必要はないとされています。

今まで曖昧に運用されていたことが解消されることで貸主有利になったと言えます。

一方で、孤独死から長期間放置されていた場合は3年間は告知すべき、
と明示されたことは貸主にとっては不利に働くことになります。
これにより、賃貸人に将来の減収が生じる可能性はより高くなったといえます。

今後の裁判事例では、賃借人の善管注意義務違反の判断に
影響が生じる可能性(より義務違反を認め得る方向になる可能性)もあると思われます。

弁護士 北村亮典 *この記事は、2025年3月31日時点の法令等に基づいて書かれています。

告知がされなければ聞けばよい!と金子は考えます

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